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悲しいできごと [上海雑記]

90年代半ばの上海は昇り行く龍のごとく経済は急拡大し市内至るところ建設ラッシュに沸いていた。新たに居住する外国人も急増し外国人用住居が極端に不足していた。当時は外国人の住む地域や住居にも制限があり、又、電気やガス等光熱費についても外国人用単価が別途割高に設定されていた。公園や博物館等施設への入場料も中国人と外国人と別々の単価設定になっていた。

私も赴任当初住居がなく約一ヶ月ホテル住まいをし、その後ようやく入れた住居は、1LDKで家賃45万円(1ヶ月)も取られた。外国人用の高層マンションが次々と建設されていった。古い住居や畑があっという間に取り払われ、瞬く間に無味乾燥な人工都市に変化していった。周辺にはレストランやカラオケ、日本人向け居酒屋、或いはデパート等便利な施設は数多くあるが、まるで人工的であり生活空間を囲む自然的優しさは皆無だった。

s-26.jpgs-21 竹の足場.jpg
(竹で足場を組んでいる)

新しく出来たマンションに取引先メーカーの駐在員が運良く入居できた。早速家族も呼び寄せようと準備を進め、念願の家族帯同一週間ほど前に急に入ってきた1泊2日の地方出張を終えて帰宅し、ドアを開けたところ床一面にガラスが散乱していた。空き巣でも入ったのかと一瞬疑ったがよく見ると天井に吊り下げられていたシャンデリアが落下していた。一週間後に家族が来てからだったら大変なことになっていたかもしれないと彼は肝を冷やした。

私の部下に語学研修を兼ねて駐在していた独身で勢いのある若者がいた。独身だけに接待の席に借り出されることは勿論同僚と一杯飲んで帰ることも多く帰宅はいつも深夜だった。
彼が入った住居も完成したばかりの高層マンションの23階だった。深夜疲れた体を引きずりながらエレベータに乗ろうとすると故障中で動かないことが1週間に1-2度は必ずあり、その都度23階まで階段を一段ずつ上がるのはまるで地獄の責め苦だといつもぼやいていた。

(いずれのケースも新築物件は危ないことを示唆している。3-4年経過した物件の方が欠陥も出尽くし改善されているので安心できる!)

上海近郊に日本から同業他社が5-6社進出し互いに競争していたが、当社と同じ行政区に進出してきたK社とは中国進出企業としての共通問題も多く、特に税関を相手にするような問題はお互いに情報を持ち寄って共同戦線を張ることもしばしばだった。

そのK社に40才前後で外語大出身の中国語のプロがいた。業界共通問題について地元政府や税関に陳情に行ったり、新しい法規制の説明を受けに行ったりする時は彼に通訳をお願いすることが多く助かった。いつもにこやかな表情を崩さず、他社の人間だからといって厭な顔も見せず真面目に取り組んでくれた。日本に妻と子供を残して2回目の単身赴任だった。彼も同じような真新しい高層マンションに住んでいた。

ある朝出社してまもなくK社から彼の突然の訃報を伝えてきた。
前夜K社では出張者があったので総経理(社長)も入り数名で夕食を共にすることになり彼も参加した由。じゃあ2次会にいこうとの話になった時、彼は、今日は自分の誕生日でこの後日本にいる妻や子供から電話が来る予定なので失礼するといって帰宅した。帰宅した彼は電話がかかってくる間を利用して風呂に湯をためておこうと思ったようだ。風呂の給湯器に点火した後、ソファで休んでいる間に一杯飲んでいたこともあり、つい寝込んでしまったらしい。

彼の妻が約束の時間に電話をしたが応答なく、その後数度にわたり電話しても何の応答もないまま翌朝になった。妻は翌朝再度電話したがやはり応答なかったので少し不安になり、急な出張でも入ったのかなと思いつつ総経理(現地法人の社長)に問合せの電話をしたのだった。電話を受けた総経理は胸騒ぎがして直ちに彼の家に行きソファに横になったままの彼を発見した。

給湯器の不完全燃焼による一酸化炭素中毒であった。

邦人の死ということで領事館からも検死にやって来たが、毎年上海で5-6名の在留邦人が一酸化中毒で死亡しているとのショッキングな話もあった。給湯器の排気口が外に出ていないことやガスの点火口が詰まりやすいこともあり、事故防止のため給湯器は中国製を使わず日本製を取り寄せる人も増えてきたことをその時に初めて知った。

葬儀は日本で行われる為上海での仮葬儀に参列させていただいた。一酸化炭素中毒特有のピンク色の肌をしており、まるで眠っているかのようであった。
次々と建設される上海高層マンション群ならではの悲しい出来事のひとつだった。

尚、私は当時の中国の高層マンションを信用しておらず、空調設備は不完全でも、やぶ蚊やゴキブリが多少多く出ても既存木造家屋の方を信用し住居としていた。市の中心部からはやや離れており周囲にレストランやショッピングセンターもなく少し不便ではあったが、敷地内には緑が多くテニスコートやプールにゴルフ練習場も完備していたので、高層マンション群に住むよりは良かったかもしれない。


緑谷別荘.jpg
(外国人専用のビラ)
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