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リスク分散 [上海雑記]

中国では昔から潮州や福建出身者を中心に海外への出稼ぎ者が多く、出稼ぎに行ったままその地に定住した華人は通称華僑と呼ばれている。他方、ユダヤ人のように祖国をなくし世界に散らばった民族もいれば、現代でも戦争、内乱等から逃れやむなく難民として祖国を離れる者もいる。更に言えば、その国の政治体制に一抹の不安を感じたり、将来のリスクを覚える人々の中にはむしろ積極的に子弟を海外に留学させたり、家族の一部を国外に移住させる人々もまた世界には多くいる。中国人もその例外ではない。

1997年7月1日に香港が中国に返還されたが、返還に際しての混乱を予想する人もいたし、実際問題として香港中国人の中では家族の一部または全部が海外に移住し、リスク分散を図ろうとする動きが活発にみられた。移住先は米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが多かった。

香港中国人は英国式民主主義で育ってきたので、返還後の中国統治(一国二制度)の行方に不安を覚える人が多いのも事実だが、台湾人もまた大陸との摩擦、将来に関連して常に危機を身近に感じておりリスク管理に余念がない。

ところで中国人の中でも上海人は最も自尊心が強いのではないだろうか。共通語は北京語だが上海人同士が上海語でしゃべると他の中国人は理解できないと言う。上海人から見れば台湾人などは遥か洋上の島の住人で一段下に見ている傾向がある。他方、台湾人は大陸の中国人を非民主主義で文化レベルの低い中国人だと見る傾向があり、香港中国人が自分達は香港人だというように、台湾人もまた自分達は中国人ではなく台湾人だといっている。

元々台湾に暮らしてきた台湾人は自らを本省人といい、蒋介石と共に大陸からやって来た人を外省人と呼んで区別している。戦後しばらく本省人は外省人に随分痛めつけられたようで確執は根深いものがあったようだ。台湾の総選挙の度にそのしがらみが見えてくる。

台湾の企業から派遣された副総経理(副社長)がいた。常々私に自慢していた。自分は中国語が出来るから日常買い物も安く出来るが、総経理は日本人だからいつも高い買い物をさせられているんだろうと鼻高々だった。あるとき彼がメイドに日用品と野菜・果物類の買い物を頼んでおいた。その中には彼がいつも購入する果物があったが、明細書を見て彼は驚いた。彼の購入単価よりはるかに安かったのだ。メイド曰くは「上海語がしゃべれなきゃあ皆外人よ」と。それ以来彼は私に自慢するのをやめて買い物を専らメイドに任せるようになった。

そんな彼の次に派遣されてきた台湾人副総経理は妻と小学生の娘を帯同してきた。日本人なら日本人学校があるが、台湾人学校と言うのは無いので地元学校に通わせるしかなかった。しかし人口が爆発的に増加している上海では生徒数も急激に伸びておりどこの学校も満杯で入学待機の児童も多数いた。娘を何とか入れたいと思った彼はやむを得ず学校長にかなりの寄付金(袖の下)を提案しようやく受け入れてもらった。

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             (上海市内の小学校)

彼の妻は台湾の裕福な家庭に育ったようで日本びいきでもあり、お茶とお花の修行のために数年間東京に留学した経験を持ち日本語もぺらぺらだった。ある朝用事があって彼の家に電話をすると彼女が出てきて「いつもお世話になっております、今代わりますのでお待ちください」と流暢な日本語で返されたときは驚いたほどだ。その彼女が夫の尽力もあり、ようやくの思いで娘を上海の地元学校に入れてまもなく決断した。こんな程度の低い学校に行かせるわけにはいかないと。そこからの行動が日本人には少し理解が難しいが、ほどなく彼女は娘を連れてニュージーランドに移住してしまった。

上海に単身生活を余儀なくされた夫はそれ以降休暇のたびに台湾を飛ばしてニュージーランドまで出かけていった。なんでも定期的にニュージーランドに行ってないと妻や娘の定住資格に影響するからとの理由を言っていた。家族の将来、台湾の将来を考えてある程度裕福な台湾人はこのような思考をするのかと驚いた。妻は決断し夫はひたすら働きつつ妻の指示に従いベストを尽くす、どの国も変わりは無いようだ。

日本人で一族のリスク分散を考えたのは真田幸村親子に代表される戦国武将ぐらいしか私は知らないが、FAR EASTの島国で撃ちてし止まん、一億総玉砕、などと近視眼的な叫びがつい最近まであった。国家の命令に従順であることもひとつの生き方だろうが、国家が国民の安全を確保してくれる保証などどこにも無いことを考えれば、国民自らが己の打開策を常々考えておくことも必要かもしれない。

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    (さあ、出発だ!)
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